連載第3回では、釣川流域を上流・中流・下流に分けてエリア別の地形リスクを解説しました。しかし、川が決壊しなくても街が浸水する、もう一つの恐ろしい現象があることをご存知でしょうか。
それが今回のテーマ、「内水氾濫(ないすいはんらん)」です。
「ハザードマップで色がついていないから大丈夫だと思っていました」という声をよく耳にします。しかし、ハザードマップには法的な「説明義務」の有無によって、見落とされやすい盲点が隠されています。
立地防災アドバイザーの視点から、宗像市で安心して暮らすための土地選びの重要ポイントを解説します。
内水氾濫とは何か?「外水」との決定的な違い
洪水には大きく分けて2つの種類があります。
外水(がいすい)氾濫とは、大雨によって河川の水位が上がり、堤防を越えたり決壊したりして浸水することです。一方、内水(ないすい)氾濫とは、市街地に降った雨が下水道や排水路の処理能力を超えたり、河川の水位が高すぎて排水できなくなったりして、街の中に水が溢れることです。
実は「川が溢れる(外水)よりも先に、街に水が溜まる(内水)」というケースは少なくありません。
内水氾濫が発生するメカニズム
豪雨が発生すると釣川などの本流の水位が上昇します。すると本流の水位が高くなりすぎて、支流や側溝からの排水が逆流するのを防ぐために水門やフラップゲートが閉じられます(バックウォーター現象)。行き場を失った雨水がマンホールや側溝から地上へ噴き出し、市街地に溜まっていきます。
宗像市が2024年1月に公表した最新の内水ハザード図では、想定最大降雨153mm/hという極端な豪雨を前提としています。この規模になると、浸水深は数十cmから場所によっては1mを超えるケースも想定されています。

【内水浸水想定区域図(赤間駅周辺)】
なぜハザードマップに載らないのか?制度の「盲点」
土地や住宅の購入時、宅地建物取引業者には「ハザードマップを用いた重要事項説明」が義務付けられています。しかしここには大きな落とし穴があります。
現在、法律(宅地建物取引業法)で説明が義務付けられているのは主に「洪水(外水)」「土砂災害」「津波」などのマップです。内水ハザードマップには法的な説明義務が課されていない場合が多いのです。
そのため一般的な不動産取引の場では、洪水マップで色がついていなければ「ここは安全です」と片付けられてしまうリスクがあります。
マップ外でもリスクがある理由
ハザードマップはあくまでシミュレーションです。実際には以下の要因で、想定以上の被害が出ることがあります。
・側溝や排水路のゴミ詰まり
・排水ポンプの故障・停止
・想定を上回る記録的短時間大雨
「マップに載っていない=浸水しない」ではなく、地形的に水が集まりやすい場所かどうかを個別に判断する必要があります。

【内水浸水想定区域図(東郷駅周辺)】
釣川流域で内水リスクが高いエリアはどこか?
宗像市の背骨ともいえる釣川流域において、特に注意すべき地形を紹介します。
① 釣川沿いの「堤内地」
堤防によって守られているはずの市街地(堤内地)は、ひとたび排水が止まると巨大なプールのようになります。特に釣川の水位が上昇しやすい中流域(赤間・東郷周辺)は、内水リスクが高まる傾向にあります。
② 支流の合流部(山田川・朝町川周辺)
釣川に流れ込む山田川や朝町川などの支流周辺は要注意です。本流の水位上昇に伴い支流からの排水が滞りやすく、ピンポイントで深い浸水が発生する可能性があります。
③ 低標高の平野部と旧河道
砂丘地帯の背後に広がる低地や、かつて川が流れていた「旧河道(きゅうかどう)」は周囲よりわずかに標高が低くなっています。こうした場所は見た目には平坦でも、雨水が真っ先に集まる性質を持っています。
比較的安全なエリアと見極め方
一方で、宗像市内でも浸水リスクが極めて低いエリアは存在します。
赤間台などの台地・段丘エリアは内水氾濫の影響をほとんど受けません。周辺道路よりも数十cm高く造成されている土地は、道路が冠水しても建物への浸水を防げる可能性が高まります。背後に山がなくかつ前面道路に向かって緩やかに傾斜しているような土地は水はけが良いのが特徴です。

【凡例画像】
後悔しないための「正しい土地調査」4ステップ
立地防災アドバイザーとして、土地選びの際に以下の4ステップでの調査をおすすめしています。
STEP1:洪水ハザードマップの確認
まずは基本。釣川が決壊した際の最大リスクを把握します。
STEP2:内水ハザードマップの確認
宗像市のHPで、内水版のマップを必ずチェックしてください。洪水マップとは別のリスクが見えてきます。
STEP3:地形図(色別標高図)の分析
マップの境界線だけでなく、周辺との標高差を可視化して水の流れを予測します。
STEP4:現地での排水確認
晴れた日に現地へ行き、側溝の大きさ・詰まり具合・周辺より低い場所がないかを自分の目で確かめます。
これらのステップを踏むことで、業者任せにしない「本当に強い土地選び」が可能になります。
まとめ
内水氾濫は、ハザードマップの「色の有無」だけで判断すると見誤る危険があります。宗像市の地形特性を理解し、多角的な視点でリスクを検証することが大切な家族と資産を守る第一歩です。
次回の第5回では「釣川流域で家を買う前に確認すべきこと」について、具体的なポイントをお伝えします。
【免責事項】
本記事に含まれるハザード情報や分析は、執筆時点での公表データ(宗像市ハザードマップ等)に基づいた一般的な解説です。浸水リスクは気象条件やインフラの整備状況により変化するため、特定の物件の安全性を保証するものではありません。実際の土地購入・建築にあたっては必ず最新の公式情報を確認し、専門家による個別調査を行うことを推奨します。
「ハザード情報の読み解き方に不安を感じている」「検討中の土地の内水リスクを確認してほしい」そんな方は、ぜひお気軽にご相談ください。

